玉岡かおるさんの作品です。
世界の美術業界に革命をもたらした陶板技術。その技術を発見し、美術作品として活用することで、世界に類を見ない規模の美術館として広く知られている鴻塚国際美術館。その設立に尽力した人々の姿を描くことで、「陶板」という、一つのおおきなムーブメントを起こした先見性、可能性、将来性を、老若男女問わず、アートに興味をもつ世界中の人々に訴える。当時の関係者への取材に基づき描いたアート小説。
ずっと気になっていた徳島にある大塚国際美術館。少し変わったこの美術館は、大塚製薬創業75周年事業として作られ、世界の名画が原寸大で1000点以上、陶板で勢ぞろいしているのです。
巨匠と呼ばれる人の作品は世界に散らばっているので、現実であればありえない連作が並んでの展示だったり、作った人の思いを汲み取っての展示だったり。陶板で出来ていることで偽物!という人もいるでしょう。
でもどんなに繊細に扱ったとしても作品は劣化します。それを陶板であれば3000年は色使いをそのままに残すことが出来るのです。まるで夢のような美術館!!その美術館誕生の経緯が作品になったと知って手にしたこの作品。
フィクションということですが、ノンフィクションにしか思えず登場人物の奔走に夢中になりました。
当時の社長、陶板技術者、絵画の選定委員、様々な人達の視点で語られていく作品は、とてもドラマチック。「産む苦しみ」なんて言葉もあるように、今までにないものを作る困難さや、またそれにかかるお金にも仰天ですよ。素晴らしい作品を飾るには額縁もこだわる、職人に作ってもらうのにそれ1つで1億とか・・たまげる・・それぞれの立場での悩みや苦労、読まなければ気づけなかったであろう情熱に胸が熱くなりました。
どの人も癖ありで一生懸命で素敵だったけど。特にこの美術館を作ろうと声をあげた社長。鳴門の砂で作るんだ!未来の子供たちへ世界に行かなくてもここで名画に触れさせてやりたいって思いに・・ありがたい・・(徳島人じゃないけど)この人の地元愛、徳島への恩返しの気持ち、先見の目、実行力には驚かされっぱなし。パワフルで豪快でとても魅力的でした。
ラストの方になってくると、タイトルの「われ去りしとも~」がじわじわと心にしみこんできて涙が。。
こだわりを知った今は、読む前よりももっと楽しめると思う。どれほど貴重な美術館なのかよく分かりました。ますます徳島の美術館行きたくなりました!!
アート作品が好きな方、熱血パワフルな人に惹かれる方、誇りをもって仕事をする生き方を素敵だと思う方、特におすすめな作品です。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩