若女将の読書 | 畑野智美 | 若葉荘の暮らし | 城崎温泉 泉翠
2023.01.14
若葉荘の暮らし

畑野智美さんの作品です。

感染症の影響を受け、望月ミチルのアルバイト先の飲食店の売上が激減。バイト代が減ってしまったミチルは家賃の安い家に移ることを余儀なくされる。そんな彼女に友人が紹介してくれたのが、40歳以上独身女性限定のシェアハウス『若葉荘だった』

若い女性の貧困はニュースで見ることはありましたが、40歳以上でアルバイトで心もとない生活をしているというのがどんなものなのか、どんな人なのか正直ピンときていませんでした。それって自分がサボっていただけなんじゃないの?とも思っていました。

色んな世代の人が住んでいるシェアハウスでは、特別びっくりするような訳アリな人もいないし、どの人も身近で懸命に生きていて。それを温かく見守る管理人のトキ子さん。依存しているわけでも馴れあってもいない、けどそばにいることで支えることもできる絶妙な距離感で暮らしているこのシェアハウスは、現代の日本にあればどれだけ心強いかと思いました。

「貧困ってお金の問題ではないのよ」

「さっさと自分が若くないことを認めて、『おばさんだから』とか冗談っぽく言ってしまった方が楽なのだろう。でも、そうしたら、できないことが急激に増えていく気がする。」

「確かなものなんて、誰も持ってないんじゃないかな?」

「死ぬまで、わたしはわたしとずっと一緒にいます。何が起きても、それは確かです。わたしはわたしのやりたいと感じることをして、わたし自身が信頼できる人になっていきたいんです。」

40歳を憂うミチルは優柔不断だし、もっと早くに考えておきなよ・・・とかイライラする部分もあったけど、そこがまた等身大だし身近に感じました。また少しずつ前向きな選択をしていく姿が良かったです。不安に思おうと思えば日々不安なんて転がってるし、絶対的な安定の中で暮らし続けれる人なんていない。1人で生きていくのはどの年代だって大変。相手が家族や恋人じゃなくても信頼できる人が傍にいることで安心できることって沢山あるんだろうなって、若葉荘での暮らしを羨ましく思いました。

ミチルが年齢を重ねることを、自分の人生で確実にないであろうことが増えていくとこぼしていたところが特に胸に刺さりました・・10年先、20年先、30年先にはきっと今の形態とも違った家族の姿や女性の生き方が増えているんだろうとも想像しましたが、せっかくの人生なのでなるべくワクワクした方の選択を出来る自分でありたいと思いました。

ミチルの決意、自分が信頼できる自分になりたいってすごくいい言葉です。

息苦しくない程度のリアリティーのある作品を探されている方に特におすすめの1冊です。

★★★☆☆

城崎温泉 泉翠 冨田 歩

https://kinosaki-sensui.com/

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