桂望実さんの作品です。
音信不通、失踪、行方不明。行方不明者捜索協会の人と訪ね歩き、生前関わりのあった人たちが語るエピソードから自分の知らなかったその人の秘められた人生が浮かんでくる。亡くなった人たちの物語をつなぐ連絡短編集。捜索のはてに彼らが見つけたものとは・・
ほぉぉ・・ニュースで耳にしたことがあるレベルの【行方不明者】という単語。深く考えたことはなかったけど、日本の行方不明者は年間8万人だとか。今まで考えたことがなかった視点での「死」や、その人の知られざる姿を知っていくのは興味深くとても引き込まれました。
身近な人を看取るというのも辛い事だし、こんなことをしてあげれば良かったという思いや後悔を感じることも多いと思います。が、看取れない、分からない(何かに巻き込まれたのか、意思をもった死なのかなど・・)そんな場合は、残された自分は何を思うのでしょう。。関係が近ければ近いほど知りたいと思うのかなと。ただ追いかけたところで見たくないモノ・知りたくないコト、自分の知らなかった姿が出てきたりもあるでしょう・・じゃあ知らないままで割り切れるのかな・・やはり本人の残したカケラのようなものを集めたいと思う気がします。
残された人が、事実を受け止め、前向きに歩む始めていく姿がとてもよかった。物語の中に何度かあったフレーズで、「残されたものが立ち直って生きていくために必要なのは、真実ではなく自分を納得させる物語」というのはずっと頭に残っています。
5つのエピソードはどれもすごく良かったです。特に『社長の背中』が好き。
「人生ってさ、修行することなんだよ。生きている間は、修行を続けるしかないって言った方がいいのかな。極端なことを言えば仮に離婚したとしても、それで修行から解放される訳じゃないんだよ。別の修業が始まって、別の課題が出されるの。それが生きるってことだから」
「困ったことがあったら、誰でもいい、友人でも昔の知り合いでも誰かに助けてと言いなさい。それは恥ずかしいことじゃないんだよ。独りじゃないはずだ。きっと誰かは心配してくれているから。独りじゃないとわかれば、きっと明日も生きようと思えるはずだ。だから頼るんだ」
死の哀しみと正面から向き合う前向きな話でした。どう受け入れるか?前を向いていくのか?それぞれの主人公の葛藤や苦しみがどう消化されていくのかが見所です。知りたいと思える相手なら、喪失感や後悔と同時に過ごした幸せな記憶もあるはず。その人に関わったモノ、コトを胸に残して残されたものは生きていく。いい話です。。
斬新な切り口の話をお探しの方、背中を押されたい方、余韻が残る読書が好きな方には特におすすめの1冊です。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩