若女将の読書 |河﨑秋子 | 介護者Ⅾ | 城崎温泉 泉翠 | 図書室
2022.11.13
介護者Ⅾ
介護者Ⅾ
介護者D
河﨑 秋子

河﨑秋子さんの作品です。

三十歳の琴美は東京で派遣社員として働く地味な毎日。そんな日々に一筋の光が。それは偶然、路上ライブで出会ったアイドルグループ「アルティメットパレット」だった。働いたお金を貯め、グッズやライブへ行き、仲間もできつつあるなか、札幌に住む父が体調を崩したとのことで急遽、帰宅することに。交通事故で五年前に母親は他界し、妹は結婚してアメリカへ。雪かきもままならない父親の様子を見て、札幌に戻ることを決意した琴美だが、地元の同級生は結婚し子育て真っ最中、初めての父子生活にお互いぎこちない日々、そしてコロナ禍へ突入する…。閉鎖的な日々、明るい展望も見えない中、生き続けるためのよすがを求めて懸命に生きる姿を描き切った、著者の新境地。

日々、不自由になっていく父を目のあたりにするのは、自分の家族ではないとはいえなかなかキツかった。塾の先生をしていた父はなんでも「正しい」主張をする。出来の良かった妹はAランク。自分はⅮランク評価、それがずっと心のしこりになってひっかかっていて。悪気なく出た言葉でもこんなにもひっかかり続けている・・身に覚えがある家族という近しい人だからこその言葉の呪い。そして普段近くに住んでいる人より遠くのたまに会う人へ優しくしてしまっている家族への、はい?ってあるあるとか。琴美の感じる小さな不満すごくわかる。

介護する側と介護される側のどちらの気持ちも表現されていて・・時間は平等で、人は少しずつ歳を重ねている。自分が介護する側なのか、される側になるのか分からないし、どちらもするかもしれないけど・・いつか身に起こりうることとして、少し先の予習をしたかのような気持ちにもなった。

いつまでも元気で仲良しでいれればそれでいいんだけど、そこに介護が関わると見たくないものが見えてきたり、綻びが生じてきたり。血の繋がりがあるからこその厄介って絶対あると思う。

日常にある小さな負の感情が絶妙で、とても良い。かといってネガティブばかりな話でもなくって。人生って常に楽しいばかりでもないし、負を感じるってあって当たり前のこと。その中でも主人公には『推し』がいるから人生にハリを持てていて、それが私には読んでいて救いだった。作品の中に主人公が男性の平均寿命から父親の年齢をひいて計算するシーンがあるんだけど・・赤ちゃんのオムツの時期は3年ほど、介護は何年になるか分からない。出口が見えないって怖すぎて何とも言えない気持ちに・・介護する側もされる側も少しでも楽しく生活できることを望みます・・綺麗ごとすぎると自分でも思うけど、でも楽しみがあるって本当に大事なことだと思う。

自分が普段どれだけお気楽な生活しているか実感する読書となりました。介護といっても家族の数だけいろんな形があるだろうし、少しずつ考えたり、可能性を探ってみたいと思いました。

現実的な話が好きな方、家族がテーマの話が気になる方、介護が身近でない方はちょっとした予習にオススメです。

★★★☆☆

城崎温泉 泉翠 冨田 歩

https://kinosaki-sensui.com/

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