浅田次郎さんの作品です。
上京して四十年、一度も帰ろうとしなかった郷里で私を温かく迎えてくれたのは、名前も知らない母でした。家庭も故郷も持たない人々の元に舞い込んだ<理想のふるさと>への招待。還暦世代の三人が半信半疑で向かった先には、奇跡の出会いが待っていた。感動が雪のように降り積もる。大切な人に今すぐ会いたくなる、永遠の名作誕生。
こりゃいかん・・いかんですよ・・泣かせの浅田が本気だしてる!!
久しぶりの帰郷に感動ってお話ではありません。家族のいない還暦世代の男女が1泊2日50万円のふるさと体験を行うお話。世にも奇妙なエッセンスが少し入っている非日常と、立場の違った3人それぞれの事情と、過疎化した山里の交流にグイグイとひきこまれました。
私は主人公たちと世代も違うので理解も経験も浅いし、茅葺屋根のふるさとを持つわけでもない。感情移入のしにくいアウェーな状態なのに、それでも心の奥を揺さぶってくる。原風景に囲まれる癒し、純朴な田舎の人々、還暦世代の孤独な側面、嘘偽りのない心の交わり。なんで懐かしいと思ってしまうんだろう。
便利というのはありがたいものだけど、年齢を重ねていった人というものが惹かれるものは、こういったものなんだろうなとも思わせられた。もちろん住んでみたらみえてくる不便さもあって、いいことばかりではないんだろうけど。素敵だなとも素直に思える。
それぞれが抱えている孤独も一生懸命生きてきたからこそ。抱えてきたものの大きさを自分に置き換えると耐えれるだろうかと怖いです。その年代に入った時に人生を振り返って自分は何を思うのだろうかと・・・
大人たちの限りなく哀しいファンタジー。とても温かい気持ちにさせられました。
文章を読むことの気持ちよさを存分に味わえる1冊です。ノスタルジーに浸りたい方や還暦世代の方はより感じるものが多いのではないかと・・私の2022年上半期1位になりそう。すごく良かった。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩