川上未映子さんの作品です。世界が待ち望んだ2年半ぶりの新刊です。
こんなにも世界が変わってしまう前に、わたしたちが必死で夢みていたものはーー。
感染症が爆発的流行を起こす直前、東京で6人の男女が体験する、甘美きわまる地獄めぐり。ギャラ飲み志願の女性、深夜の学校へ忍び込む高校生、寝たきりのベッドで人生を振り返る老女、親友をひそかに裏切りつづけた作家・・かれらの前で世界は冷たく変貌しはじめる。これがただの悪夢ならば、目をさませば済むことなのに・・
コロナ禍を絡めたそれぞれの人間心理が描かれた短編集。んー・・ちょっと独特で、不思議で、人間の心理の底にある澱のようなものが詰め込まれてて。形のない怖いものというか、ざわざわと心もとないような気持にさせられる読書でチビチビと読みました。
年齢も環境も異なる全ての人の『澱』。心の底で漂う綺麗とはいいがたい言葉にできない感情。自分の記憶だったり感情に生々しく呼びかけられました。
これを読んで浄化されたと感じるか、ただ気持ちがざわついたホラーに感じるかは読書するあなた次第。
特に興味深かったのは、最後の『娘について』。嫉妬する側、される側。どちらの気持ちもわかる。人間のもつ悪意や醜さ、歪みがとてもリアルでした。
明確なものが好きな方には不向きかもしれません。川上さんの書くパンデミック前が気になる方。なんだか肌寒い春、世界は綺麗なものだけでなく歪みがある、戸惑い。どこかここではない世界に引き込まれた感覚を味わいたい方、ぜひお試しください。独特の読後感と深い時間を過ごせるかと。
余談ですが、こちらの本のレビューを筒井康隆さんがされていて、大絶賛。最後のしめが『わしにはとてもかけんわ』あの大先生にこの評価されるって何事?!村上春樹さんとも交流があるんですよね。。ますます何事!?そんなミーハー的な興味から私はよみはじめました(笑)
★★☆☆☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩