君嶋彼方さんの作品です。
圧倒的リアリティで「入れ替わり」を描く小説野生時代新人賞受賞作。
高校1年生の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。
いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。
もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩みだすべきか。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。
コレめちゃくちゃ面白い!!昔からよくある男女入れ替わり物語。ですがこの作品が今までの作品と異なるのは、元の体に戻れず別人として生きていくこと。結婚、更に出産まで!!
入れ替わった当日のシーン。寝起きに違和感を感じる高1男子(体は女性)の体はなんと生理2日目でパニック。今までこんな生々しい入れ替わり物語は読んだことがありません。
非現実的な設定なのに、リアリティがすごくて、未来についての葛藤や苦悩、外から見た家族の事、ジェンダーを越えて人としてどう生きていくかが描かれていました。2人が健気で切なかったです。
自分以外の人生を生きなければならない。自分が生きるはずだった人生を他人が生きる。アイデンティティなんてないも同然。大切な人に認識されない辛さ。
ジェンダーだったり、孤独だったり、生きているというだけで何かしらの悩みを持っている人がほとんどだと思います。 どんな辛い状況でも生きていかなければならない。失った物ばかり思っていてもしょうがない。
自分を生きるということ。
自分の味方は自分。 そんな誰もの背中を優しく押してくれる作品でした。
運命共同体の二人の強い絆に感動しました。
デビュー作らしい粗削りな所も感じましたが、題材が面白くとても素敵な優しさにあふれるお話でした。長々と感想を述べてしまいましたが、先入観なく読んで楽しんでいただきたい1冊です。入れ替わり物が苦手な方以外はぜひ!!
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩