阿部暁子さんの作品です。
一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。
法務省に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。
最高でした!やさしくも、せつない‥泣ける‥前置きなく読みたい人はこのまま目をつぶって引き返してください。それもオススメです!!
あらすじでは分からない問題が怒涛の如く続きました。長い間の不妊治療の末、突き付けられた離婚、溺愛していた弟の死、弟ばかり可愛がっていた両親との確執、弟は別れた彼女に遺産残すし、その彼女がまた変な人で!しんどい・・ってなった瞬間もありました。先が気になって重さに比例せずにサクサクと読み進めれました。メインの2人のキャラがそうさせたのでしょうか。
薫子さんは正論で強引、生真面目すぎるし。せつなの愛想のなさとぶっきらぼう。2人とも極端な人で苦手だなと思っていましたが。その2人が交わっていく様子はスパイスが効いていて、楽しい。そしてその2人の不器用だけど偽りのない優しさに私もちょっと救われた。
ぶっきらぼうなせつなの作る美味しいご飯が、ギリギリまで追い詰められていた人の心と人生にそっと寄り添って救いを差し伸べてくれていました。ギリギリのなり方も人それぞれだし、その人の見せているところもその人の一部でしかない。改めて思い出させてくれた1冊でした。
『お腹がすいていること、寝起きする場所でくつろげないことは、だめです。子供も大人も関係なく、どんな人にとっても』
『あなたの人生も、あなたの命も、あなただけのもので、あなただけが使い道を決められる。たとえ誰が何を言おうとあなたが思うようにしていい』
『人間なのてただでさえ行き違うものなんだから、言葉で伝えることまで放棄したら、相手にはもう何ひとつわからない』
好きな作家さんが面白いのは想定内。こちらは初めて読む作家さんでしたが、すごく面白いくて、見つけた!ってバチっとした感覚になったというか、嬉しい瞬間でした。
薫子だけでなく、カフネに依頼してくる家族は介護、ワンオペ、ネグレクト、ジェンダーと色々な人がいました。問題てんこ盛りに見えるのにまとまりよく心に届く素晴らしい作品でした。私的には作中で気になっていた何個かの要素を謎のままにせずハッキリしてくれたところも消化スッキリでよかったです。
優しくて切ない話が好きな方、ヒューマンドラマの好きな方、心救われる話をお探しの方に特におすすめです。
★★★★4.5
城崎温泉 泉翠 冨田 歩