夏川草介さんの作品作品です。
主人公のマチ先生は、将来を嘱望された「凄腕の医師」で大学病院でバリバリ働いていたが、シングルマザーだった最愛の妹が病死して残された甥っ子と暮らすため町医者となることを決意。
現役医師として命と向き合い続けた著者が到達した「人の幸せ」とは。
医療がテーマの作品ですが、舞台は町の小さな病院といった雰囲気で、患者さんは死に近い高齢の方も多く定期的な往診だったりと前の職場とは正反対。誠実に病気ではなく人を診る。その人の希望に沿った治療で見守る。お迎えをまつ人にかけるマチ先生の言葉は胸に響きました・・
「医療がどれほど進歩しても、人間が強くなるわけじゃない。技術には、人の哀しみを克服する力はない。勇気や安心を、薬局で処方できるうようになるわけでもない。」
「野心はなくても矜持はある」
「願ってもどうにもならないことが、世界には溢れている。意志や祈りや願いでは、世界は変えられない。そのことは、絶望なのではなく、希望なのである。」
「がんばらなくても良いのです。ただ、あまり急いでもいけません。あっちの世界への道は基本的に一方通行です。~中略~せっかくこちらにいるのですから、あまり急ぐのも、もったいないと思います。」
2024年もとてもいい作品に出会えた!そう思えるほど序盤から好きな空気感でした。舞台は京都。自転車で往診する風景も、たくさん出てくる京都の和菓子も魅力的でした。
いのちが残りわずかな患者さんにかける言葉は過剰ではなく、とても寄り添った芯に響く言葉で。患者さんもその家族も色んなタイプの人がいるけど、どんな人も押し付けず受け入れる包容力。これは命に向き合い続けてる作者だからこその言葉に感じました。甥っ子君に前職の先生たち、みんな味がある。また会いたい!シリーズ化してほしいです。
感動して涙、そして勇気をもらいました。幸せとはなんだろう?その答えが少し分かるかもしれません。京都が好きな方、勇気が欲しい方、現役医師が書いた穏やかな医療物が気になる方に特におススメです。
★★★★☆4.5
城崎温泉 泉翠 冨田 歩