あなたはここにいなくとも
町田そのこさんの作品です。
恋人に紹介できない家族、会社でのいじめによる対人恐怖症、人間関係をリセットしたくなる衝動、わきまえていたはずだった不倫、ずっと側にいると思っていた幼馴染との別れ‐‐いまは人生の迷子になってしまたけれど、あなたの道しるべは、ほら、ここに。もつれた心を解きほぐす、ぬくもりに満ちた全五篇。
やっぱり町田さんはハズレがない!!どの話もおばあちゃんが出てくる短編集。優しく温かいだけじゃない、ピリッと筋の通った粋なおばあちゃんたち。思い悩む若い女性とおばあちゃんの交流がすごく良かった。
お気に入りというか、展開が読めなかったのは『くろい穴』妻が食べたがっているからと作るよう頼んできた不倫相手と、苛立ちながらも手間暇かけて作る女。
心に残っているのは『生を生くひと』余命が分かっていて終活をしているおばあちゃんと、ひょんなことから片付けを手伝うことになった女子高生。おばあちゃんがその子に伝えてくれた大事な言葉。自分に言われているみたいに沁みました。
先に生きてきた人が生き様で教えてくれるいろんなこと。本人は葛藤もあるだろうけど潔くあろうとする姿。カッコいいです。
『過去に縛られて何もできなくなることが愛情深いわけじゃない。未練がましく縋り続けることだけが本気っていうわけじゃない』
『恋は自転車と一緒。うまく乗れる子もいるし、何回もこける子もいる。自分じゃ乗りこなせなくても、この自転車じゃないと嫌ってこだわる子もいるわけよ』
『私はあなたたちのぜーんぶ受け止めて、抱きしめるわよ。頑張ったねって言うわよ。だから安心して傷つきなさい。安心して、生きなさい。後悔や心残りだけはないように頑張りなさい。』
出会いも別れも愛おしくなる物語。きっとどこか共感できる話が見つかるかと思います。そっと背中を押されたい方、温かい話が好きな方、心がカチカチになっている方、特におすすめです。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩