青山美智子さんの作品です。
長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。
つまづいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの想いも満ち欠けを繰り返し、新しくかけがえのない毎日を紡いでいく‐‐。
ジーンと心に残る1冊でした。登場人物は誰もが現状に満足がいかずに悩みをを抱えています。そんな自分でも誰かに影響を与えている、誰かの為になっていることがある。私もそのうちの一人だけど、それに気づいていない人って意外と多いんじゃないかな。実はかけがえのない1日を過ごしてるんだよっていう。その事実にすごく幸せで満たされた気持ちになりました。
1番好きだったのは、『お天道様』不器用な父親が、急に決まった娘の結婚&出産を喜べずにってお話。こういうった設定だとお母さんが肝が据わってて喜んでてお父さんは頑固者ってパターンが多いんだけど。私はお父さん側なんだよなぁ…お母さんの包み込む深い愛みたいなの出来ないし、お父さんがんばれ!ってなってしまう(笑)少しずつ分かり合える家族に泣けてしまいました‥ラストの『針金の光』もじーん。
『悩んでるときって、自分を見失ったりするじゃない。私がいるよっていうのは、あなたがいるよって伝えるのと同じことだと思うの。彼女を想ってる私の存在が、彼女の存在の証しになるんじゃないかなって』
『叶わなかったらダメなのかな。夢を持ってるっていうことそのものが、人を輝かせるんじゃないかな』
『あたりまえのように与えられ続けている優しさや愛情は、よっぽど気をつけていないと無味無臭だと思うようになってしまうものなのよ。透明になってしまうものなのよ。それは本当の孤独よりもずっと寂しいことかもしれない』
一歩踏み出す空気を貰えて、人っていいなと思える温かい作品です。前向きになりたい方、優しい気持ちになりたい方、癒されたい方、生き方や人間関係に悩んでいる方に特におすすめの1冊です。月にまつわる豆知識も楽しいです。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩