新川帆立さんの作品です。
「あなたのご先祖様を調査いたします」風子は、母と生き別れてから20年以上、野良猫のように暮らしてきた。東京は谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている。「曾祖父を探してください」「先祖の霊のたたりかもしれないので、調べて」など様々な、先祖の調査依頼が舞い込む。宮崎、岩手、沖縄…調査に赴いた旅先で美味しい料理を楽しみながら、マイペースで仕事をしている風子。いつか、自らの母を探したいと思いながら。
これまた初めて知るお仕事がテーマの作品でワクワク!たまにテレビでも有名人の先祖を辿ってみるといった番組を見かけますが、意外な人に繋がったりで面白く思っていました。
自分は、知っている範囲外のご先祖様をお金を払ってまで知りたいとは思いませんでしたが、今自分が存在しているのはご先祖様あってこそ。それぞれのヒストリーもあって・・と思うと歴史ってすごいなと・・
作中ではご先祖に興味があって依頼する人、調べざるおえない人と・・・多彩な理由がありました。そして幽霊戸籍、棄児戸籍、焼失戸籍、無戸籍、棄民戸籍と5話それぞれ主題が違うので、知らない言葉や仕組みの勉強にもなりました。
ラストの話で主人公が母親から捨てられた理由が分かるのですが・・想像していたものと全く違って。。知らなければ絶対に正解は出ない、とても切ない理由でした。
「持てる人は、持たない人の苦しみを知らない」
「経済的に恵まれている。愛情も注がれている、ように見える。けれども、家庭の中で何が起きているのか、外側からは分からないものだ」
「戸籍ができたら、やっと自分が認められるような気がする」「やっと、公に存在していいというか、お天道様の下を歩けるというか。」
「実生活でほとんど目にすることのない紙きれ一枚の話なのに、どうしようもなく人の縁が振り回される」
「人の縁の中でしか人は生まれないし、生まれた瞬間から人の縁に人の縁に組み込まれる。それは鬱陶しい蜘蛛の巣のようでもあり、大海に投げ出された救助ロープのようでもある。」
テーマ自体は重いですが、内容はさらっとしているのでするする読めます。また各地で食べるご飯や、喫茶店のマスターが差し入れてくれる飲み物もおいしそうでほっこり。特にプルプルの玉子焼き食べてみたいなぁ・・
連作短編なので軽い読書にも向いていますが、社会の問題点も投げかけられていたり、少し新しい事を知れるところもよかったです。なるほど!な読書をしたい方にオススメします。
★★★☆☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩