沖田円さんの作品です。
そこは静かな町の喫茶店。決して繁盛しているとは言えないが、毎日、様々な想いを抱えたお客さんが訪れる。何気ない毎日の中で、自分の生き方がほんの少しだけわからなくなっている人に捧ぐ、小さな人生の再生ストーリー。
出てくる5人は特別な人ではありません。離婚した後も母親になれなかったことに悩む女性、趣味のアクセサリー作りを人に話せない男子高生、平凡で退屈な生き方にうんざりしているOL、不思議な依頼を受ける便利屋さん・・普通の人の普通の悩み、それが共感だし、身近な人たちだからこそ応援してしまいます!
私が一番好きな物語は、1話目の『家族写真』です。母親として不十分と責める旦那さんにはイラっとしたけど、子どもだと思っていた娘はそのままの存在として自分を認めてくれていた。不器用だけど思う気持ちが伝わっていたことに本当にうれしかった!!最初は歪に思えた家族の形が、繋がりが、最後には素敵に思えました。
「愛があればそれでいいとは思わない。行動が伴わなきゃ気持ちなんて意味がない。けど、何もないのと愛があるのとは、全然違う」
「大人になるのは嫌だね。どうしたって学生のときみたいに好き勝手できないんだから。自由な分、誰も守ってくれない。自分でうまい妥協点見つけて、折り合いをつけてやってかなきゃいけないんだ」
「否定されたことを胸を張って否定できないことが怖い。」
「人と違うことがしたいって、自分の個性を生きてるようでいて、常に人と自分を比べちゃってるってことでもあるんだ」
どんな人にだって悩みがあって、躓きがあって、人生にちょっとしたドラマだってある。そんなささやかな人たちの物語。
子どもだったり、仕事、自分自身といろんな角度への向き合い方を読みながら、なるほど~、うんうん、と頷きながら読みました。
悩みを抱えている全ての人に、ちょっと気持ちが明るくなって明日が楽しみに思えるような本です。気持ちのいい読後感です。癒される読書がしたい人にお勧めします。
★★★★☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩