林真理子さんの作品です。
「父さんと死のう」このままでは、わが子を手にかけ、自分も死ぬかもしれない。息子が部屋から出なくなって七年。このままでは、家族が破滅する。
都内で父から受け継いだ歯科医院を営む大澤正樹。美しく従順な妻と優秀な娘にめぐまれ、完璧な人生を送っているように見えるが、決して家族以外に知られたくない秘密があった。有名中学に合格し、医師になることを目指していたはずの長男が七年引きこもったままなのだ。「弟のせいで結婚できない」相手家族に結婚を反対された娘の悲痛な叫びに、正樹はついに息子と向き合う決意をするが。
『8050』という言葉をご存知でしょうか?私は初めて知りました。80代の親が50代の子どもの生活を支えるという問題です。ひきこもりという言葉が社会に出はじめる1980年代、そこから約30年たち当時の若者が中年に、親が80代になって生活がたちいかなくなっている問題です。そして今の日本には引きこもりが100万人いるという数字にも驚きました。。
息子が引きこもるきっかけとなったいじめ、学校による隠蔽、『いじめ』が与える影響、ひきこもりを専門にしている業者の存在。知らなかった社会を覗けました。
いじめがどれだけ人の尊厳を奪うか、心を殺す行為なのか。
息子のプライドを守り、父との信頼関係を取り戻すための復讐が始まります。
重いテーマでしたが、先が気になってスルスルっと読めてしまいます。
「あのね、世間にはよくある話しかもしれないけど、自分がそのよくある話に関係するのって絶対イヤ」
「子どもの出来なんて、籤みたいなもんだと思わない?どんなうちだって、何本かハズレが入ってる。私達はたまたまハズレをひいちゃった」
夫婦間の考えのズレ、甘いお母さんに、自分のことしか考えていない姉がリアルさに拍車をかけます。
自分の子を手に負えないと思う感じ、狂暴化して変わっていく子どもを見守る辛さ。人生のこんなはずじゃなかったが濃縮されていました。
どこにでもあり得る話です。日常に潜む闇と絶望を覗いてみたい方、テンポのいいストーリーを読みたい方にオススメします。
最後の裁判のシーン、良かったです。読後感はスッキリです。
★★★☆☆
城崎温泉 泉翠 冨田 歩